まもりびと綴り

2025年12月4日

〝粋〟と〝結束力〟で歴史を紡ぐ、氏子たちの晴れ舞台

〝粋〟と〝結束力〟で歴史を紡ぐ、氏子たちの晴れ舞台

根津神社 例大祭(東京都文京区)
千駄木二丁目東町会・西町会

日本全国に8万社以上、小さな祠や社(やしろ)を含めれば20~30万社も存在するという神社。古来、日本人は自然や祖先、日常で使う道具に至るあらゆるものに神が宿るととらえ、生活に根ざした身近なものと受け止めてきました。いわば八百万(やおよろず)の神を祀る場として、全国の神社で祈りと感謝を捧げる祭りが行われてきたのです。

そんな神社のお祭りを探訪すべく、今回は東京都文京区・根津神社で令和7年9月20、21日に行われた例大祭を訪問。下町の粋でいなせな皆さんが迎えてくれました。

根津神社のご由緒と例大祭

「ピッ! ピッ!」「せいや! せいや!」
「ピッ! ピッ!」「せいや! せいや!」

秋の便りが届いた9月20日、心地よい笛の音と神輿を担ぐ威勢のいい掛け声が響き渡りました。

つつじの名所として有名な根津神社は、東京十社のひとつに数えられる由緒ある神社。現在の社殿は宝永三年(1706年)、江戸幕府6代将軍・徳川家宣が献納した屋敷地に造営されました。本殿と幣殿、拝殿が「工」の字の形で一体化した権現造の名作と謳われ、戦火を逃れた社殿など7棟が重要文化財として今に伝えられています。

また、例大祭は神社で最も重要なお祭りとされ、根津神社のハイライトと言える神幸行事(※1)が氏子の皆さんによる神輿渡御(※2)なのです。

根津神社
根津神社
千駄木二丁目東町会・西町会による神輿渡御の様子
千駄木二丁目東町会・西町会による神輿渡御の様子

歴史を紡ぎ、仲間をつくる半纏

氏子とは、神社を自分たちの守り神として祭礼や行事を支える地域住民のこと。根津神社では文京区根津地区、千駄木地区、向丘地区、白山地区、台東区池之端など23の町会が例大祭を盛り上げています。

「根津神社だけでなく、町会のお祭りという特色も強いんです」。

そう語るのは23町会のひとつ、千駄木二丁目西町会の野口孝彦さん。確かに神社境内は観光客が目立つ一方、隣接する不忍通りには各町会の神輿や山車が巡行し、景気づけのお酒で活気づいた氏子も多く、熱気がヒシヒシと伝わってきました。

そんな西町会の皆さんは、墨色の黒地にオレンジ色の文字をあしらったおそろいの半纏を着用。野口さんはこの〝黒半纏〟に西町会の系譜があるとして、次のように語ってくれました。

「もともとは千駄木二丁目東町会・西町会で同じオレンジ色の半纏でした。今から19年前、根津神社の御遷座300年に合わせて新たにつくったのがこの黒半纏。新しいことをやろうぜ、という先輩の声で決まったんです」。

そんなお話を伺っていると、現れたのが千駄ヶ谷二丁目町会の会長さん。千駄木ではなく渋谷区の「千駄ヶ谷」です。なぜ? と思いましたが、西町会の佐々木富朗会長がその理由を教えてくれました。

「昔、タクシーで『千駄木まで』って言ったら、間違って千駄ヶ谷につれて行かれたことがありました。この話をしたら面白いってなって、千駄ヶ谷二丁目町会とコンタクトを取ることに。それで日本初となる姉妹町会提携の調印式が文京・渋谷両区長の立会いで行われ、現在も交流が続いています」。

こうした取り組みに寛容な西町会に対し、鮮やかなオレンジ半纏を守り続けているのが千駄木二丁目東町会の皆さん。オレンジに決まったのは、目立つ色の町半纏をつくるための会合で町会の重鎮が着ていたオレンジのTシャツに、「それいいね!」と参加者が賛同したからとのこと。

「オレンジ半纏はおらが町の象徴ですね。うちの会員は普段は腰が重たそうなのに、半纏に関しては追加でつくるとデザインがどうとか、色がしっかり出ているかとか、軽くていいとか、とにかくうるさい(笑)。オレンジに黒文字の半纏が、東が東であることへのこだわりなんです」(小山内啓介・東町会長)。

革新と伝統――半纏が紡いだ歴史には新たな仲間を生み出してきた1ページもあるようで、西町会の内山昇さんもその一人。野口さんと同い年の内山さんは祭りに興味があったものの、もともとは北海道旭川市出身のいわゆる〝外様〟。江戸っ子コミュニティへ飛び込むには勇気が必要でした。

「僕が東町会から西町会へ引っ越したのが御遷座300年のタイミングで、とあるお店に黒半纏の購入者募集のポスターが貼られていたんです。とってもとっても欲しいんですけど、半纏を頼むときに『あんた誰?』とか言われないかドキドキして店に入って。でも『サイズいくつ?』って聞かれて拍子抜け(笑)。受け入れられたんだなぁと実感しました。今の自分があるのは半纏が始まりなんです」。

「今では俺を飛び越えて町会のど真ん中で活躍してる(笑)」(野口さん)という内山さん。人口減や近所づきあいの希薄化が騒がれるなか、東西千駄木二丁目町会の確かな結束を感じさせてくれるエピソードでした。

墨色の黒半纏が西町会の皆さん
墨色の黒半纏が西町会の皆さん
オレンジ半纏の東町会の皆さん
オレンジ半纏の東町会の皆さん

祭りを継ぐ、新たな担い手たち

17時には、大若(大人)たちによる東西千駄木二丁目町会の神輿巡行がスタート。祭りでは神社の本殿から神様が神輿へお遷しになり、氏子たちが神輿を担いで練り歩くことで、神様が地域を見回り加護を授ける意味があるとされています。

神輿は東町会のお神酒所から巡行し、東西の氏子が祭囃子の和太鼓と笛のリズムに合わせ、五穀豊穣や地域安全、無病息災への感謝を込めて一緒に声を上げながら練り歩きます。しばらくすると、出番のなかった氏子に担ぎ手をバトンタッチ。全員が自然な流れで神輿を担ぐ光景は、地域住民の結束力そのものです。

「東京全体で町会を支える人が高齢化する中、たくさんの若手が町会活動に参加し、お祭りに加わっているのは他所にない特徴です」(野口さん)と言うように、男女を問わず10、20代の若手からベテランまで笑顔で一緒に話す姿が印象的でした。

こうした熱狂のなか、取材に答えてくれたのが内山さんのご息女、桜子さんと野口はるかさん。今は二人とも地元を離れ、「年に1度は呼び出される(笑)」(桜子さん)そうですが、子どもの頃からお祭りに連れていかれたせいか、普段から全然人見知りをしないそうです。

とは言え、やっぱり遊びたい盛りの世代。地域行事なんて嫌だろうと思いましたが……。「これが自然なんです。父と同世代の方のお子さんに小学時代の同級生が多くて、みんな友達。彼氏や子どもを連れてくる子もいるくらいです。それに、世代の壁がないのは町会自体がウェルカムだから。お祭りで1年ぶりに会った人の顔も覚えているし、挨拶もします。もちろん顔しか知らない方もいますよ。でも、成長して町会で認めてもらい役員になれば、その人の名前もわかってもっと仲良くなれますよね」。

そしてもう一人お話しを伺ったのが、オレンジ半纏を粋に着こなす米国人のマッギン・ゼインさん。2014年に来日して、なんと日本の大学で日本史を教えているそうです。

「去年、初めて参加しました。毎年お祭りを見ていて『参加したいよ~』って思っていましたが、外国人だし言うのが恥ずかしかった。でも『やりましょう!』って言ってくれて。去年は半纏を借りたんですが、今年買ったんです。似合ってますか? オー、アリガトー!」息子さんは日本で生まれたそうで、「見た目はハンバーガー、中身はお寿司」と笑顔で教えてくれたゼインさん。

この町の人は、年齢も性別も国籍も関係なく誰でもOK――人情味あふれる東西千駄木二丁目町会の〝粋〟は新たな担い手に受け継がれ、これからも続いていきそうです。

内山桜子さん(左)と野口はるかさん(右)
内山桜子さん(左)と野口はるかさん(右)
マッギン・ゼインさんご夫妻
マッギン・ゼインさんご夫妻

古き良き日本がある「谷根千」

根津神社の根津、森鴎外や夏目漱石など文豪にゆかりのある千駄木に加え、70以上のお寺が残る寺町の台東区・谷中。これらのエリアを初めて「谷根千」と呼んだのが、当時主婦だった森まゆみさん、仰木ひろみさん、山崎範子さんの3人が1984年10月に創刊したタウン誌『谷中 根津 千駄木』だとされています。また、この地域に魅了される人も多く、千駄木駅のそばでセレクトショップを構える女優・川上麻衣子さんもその一人。神輿を担ぎ終え、急なお願いにもかかわらず撮影に応じてくれました。

谷根千の下町情緒や歴史的風景――それらがノスタルジーを誘うのは、私たちの心に古き良き日本を残しておきたい思いがあるからなのかもしれませんね。皆さんの町でも知られざる「ザ・日本」があると思うので、ぜひ探してみてください。

川上麻衣子さんもお神輿を担いだそうです
川上麻衣子さんもお神輿を担いだそうです
タウン誌『谷中 根津 千駄木』と『谷中ガイドブック』
タウン誌『谷中 根津 千駄木』と『谷中ガイドブック』
  • ※1 神幸行事:神社の祭礼において、神霊が本社から他の場所へ移動する一連の行事のこと
  • ※2 神輿渡御(みこしとぎょ):祭礼の際に、神社の神様が乗る神輿が氏子地域や御旅所と呼ばれる場所へ巡行すること

根津神社

住所 〒113-0031 東京都文京区根津1-28-9
アクセス 東京メトロ千代田線「根津駅」・「千駄木駅」より徒歩5分
東京メトロ南北線「東大前駅」より徒歩5分
都営三田線「白山駅」より徒歩10分
根津神社例大祭 9月中旬(例祭式は9月21日)
ご祭神 須佐之男命(スサノオノミコト)・大山咋命(おおやまくいのかみ)・誉田別命(ほんだわけのみこと)
相殿 大国主命(オオクニヌシノミコト)・菅原道真公
世界中を、感動で染める。

世界中を、
感動で染める。

水野染工場では、印染商品を中心に図案から染色、縫製まで一貫しておつくりしています。
さまざまな伝統技法を用いて、お客様の「想い」に寄り添う商品をひとつひとつ、心を込めて染め上げます

OKUROJI店では、デザイン見本、生地見本、色見本をご用意しています。
お店で打合せもできますので、お気軽にご相談ください。

水野染工場 日比谷OKUROJI店(日比谷OKUROJI内)

住所 〒100-0011 東京都千代田区内幸町一丁目7番1号
電話 03-6205-8203 03-6807-3901
FAX 03-6205-8204 03-6807-3902
営業時間 11:30~20:00
定休日 不定休

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